新型コロナウイルス感染症のパンデミックをめぐる歴史的公文書の保存と継承についての要望書


内閣総理大臣 岸田文雄 殿

総務大臣 松本剛明 殿

厚生労働大臣 武見敬三 殿

都道府県知事 殿


令和5年(2023)9月26日、日本学術会議は提言「新型コロナウイルス感染症のパンデミックをめぐる資料、記録、記憶の保全と継承のために」を公表し、将来的な新興感染症の脅威に対して強靱な社会を構築するためには、パンデミックの過程で作成され蓄積されてきたさまざまな資料、記録、記憶を適切に保全・継承するための制度の構築が必要であり、また、その結果は、国民全体に開かれ、共有されなければならないとした。

日本歴史学協会は、発足以来、歴史資料となる公文書や文化財の保存・利用問題に取り組んでおり、同年6月には日本学術会議と史料保存利用問題シンポジウム「コロナ感染症をめぐる記録と記憶―何を、誰が、どう残すか―」を共催し、パンデミックに関する記録等の保存に関する諸問題について検討し、迅速な対策が欠かせないことを広く共有してきた。

喫緊の課題は、2020年度に作成されたパンデミックに関する公文書のうち、保存年限3年の文書が本年度中に廃棄対象となることである。

政府では、今般の新型コロナウイルス感染症に係る事態を「行政文書の管理に関するガイドライン」(平成23年(2011)4月1日内閣総理大臣決定)に規定する「歴史的緊急事態」に該当するものとすることが閣議了解(令和2年(2020)3月10日)された。閣議後の会見では、今般の事態は国家・社会として記録を共有すべき歴史的に重要な政策事項となり得るものであり、その教訓が将来に生かされるものとして、行政文書の管理に関するガイドラインに規定される「歴史的緊急事態」に該当すると判断されたと説明があり、また、関係閣僚に対して、本事案に対応する会議等の記録をはじめ、後世に本事案への対応の経緯や教訓を残していくため、適切に文書が作成・保存されるように指導の徹底をお願いしたとする(北村誠吾内閣府特命担当大臣記者会見要旨 令和2年3月10日)。

このことから政府の「歴史的緊急事態」のもとで対応にあたった地方自治体でもコロナ関係行政文書の保存についての考え方、具体的な判断基準を公表することが求められる。日本歴史学協会としては、先の日本学術会議の提言も踏まえ「パンデミックに関する公文書記録」を確実に残すために以下のことを要望する。



(1)国の各行政機関においては、政府が新型コロナのパンデミックを「歴史的緊急事態」に指定した重要性に鑑み、後の検証を可能とする歴史的公文書や記録の対象・範囲を定め、国立公文書館へ適切に移管し保全・継承が行われること。

(2)地方自治体においても、内閣府大臣官房公文書管理課長の令和2年3月 10 日の「通知」を踏まえ、「歴史的緊急事態」に関する資料や記録を、国の取組に準じてガイドラインを設定し、地方自治体の公文書館等に移管し、その保存・継承に関する適切な措置をとること。特に最前線に位置した保健所の公文書や記録は、パンデミックの実態と対策のあり方を示す重要な歴史資料であることから、その保全・継承に努めること。

(3)以上の措置に関しては、現場の職員だけでなく公文書館等のアーキビストと連携を取りながら確実に必要な歴史的公文書・記録を遺すよう努めること。

 なお、都道府県におかれては、管内の市区町村にも本要望書について情報提供をお願いしたい。


2024年1月21日


日本歴史学協会  

会長 若尾政希



<参考資料>

・日本学術会議提言「新型コロナウイルス感染症のパンデミックをめぐる資料、記録、記憶の保全と継承のために」(令和5年9月26日)

  https://www.scj.go.jp/ja/info/kohyo/pdf/kohyo-25-t353-2.pdf

・行政文書の管理に関するガイドライン

  https://www8.cao.go.jp/chosei/koubun/hourei/kanri-gl.pdf

・北村内閣府特命担当大臣記者会見要旨(令和2年3月10日)

  https://www.cao.go.jp/minister/1909_s_kitamura/kaiken/20200310kaiken.html

・行政文書の管理における「歴史的緊急事態」の決定について(令和2年3月 10 日)

  https://www8.cao.go.jp/chosei/koubun/rekiren/tsuchi200310.pdf