要望書

高輪築堤の全面保存を求める共同要望について


文部科学大臣 萩生田光一 様

国土交通大臣 赤羽一嘉 様

文化庁長官 都倉俊一 様

東京都知事 小池百合子 様

東京都教育委員会 教育長 藤田裕司 様

港区長 武井雅昭 様

港区教育委員会 教育長 浦田幹男 様

東日本旅客鉄道株式会社 代表取締役社長 深澤祐二 様


日本歴史学協会と日本考古学協会は、考古学・歴史学の研究の基礎をなしている、史資料・遺物・遺構ならびに文化財をめぐる調査や研究、保存や活用にかかわる諸問題に対し、これまでも積極的に取り組み、関係者等と綿密に連携を図りながら、その解決に向けて対応しております。

わたくしどもは、関係諸学会とともに、今回問題となっている、東京都港区にあるJR高輪ゲートウェイ駅周辺の「品川開発プロジェクト」の大規模工事にともなう発掘調査で発見された、明治5年(1872)に開業した日本最初の新橋横浜間鉄道の遺構である「高輪築堤」について、産業史、鉄道史・交通史に加え、工学、技術史の側面から、日本近代史を象徴する極めて重要な遺構であるとの評価を行いました。その上で、学術調査の進捗状況や保存の方向性について常に注視をしながら、出土した築堤遺構の全面的な現地保存を求めて、再三再四、関係者に対し要望書や声明を発してまいりました。

その中で、4月21日に事業者である東日本旅客鉄道会社が、高輪築堤「第七橋梁部」80㍍と公園予定地40㍍の築堤遺構の現地保存ならびに「信号機」遺構の移設を行うことを明らかにするとともに、残りの700㍍の遺構については「記録保存」とする、という方針を表明いたしました。それに対し、日本考古学協会は、この方針を「容認できない」としたうえで、貴重な高輪築堤遺構の一般公開の機会を設け、多くの人びとや様々な分野の専門家から保存の必要性などについての意見を聞くことが重要であるとの表明を行いました。

しかしながら、5月18日には高輪築堤遺構の大部分を占める700㍍部分について、開発工事にともなう「記録保存」、すなわち遺構撤去のための調査が開始され、当該遺構の保存が日を追うごとに難しい状況となっております。

日本考古学協会ならびに日本歴史学協会は、このような事態を招いたことについて、これを「高輪築堤」が有している文化財(史跡)の本質的価値の高さと、全面保存の必要性が関係当事者に十二分に理解をされなかった結果と受け止めるとともに、このような対応となったことについて「遺憾」の意を表明いたします。

その上で、「高輪築堤」の現状ならびに今後の方向性を鑑みて、以下の点を要望いたします。


(1)改めて「高輪築堤」の全面保存を求めるとともに、その構築方法・構造等、遺構の価値を明らかにするための調査を慎重に実施し、そのうえで史跡として保存する範囲を再検討すること。

(2)昨今の文化財保護法の改正によって、文化財の確実な「保存」と「活用」が求められる条件が整いつつある。今後、「高輪築堤」遺構の公開(活用)を検討する前提条件として、最新の保存技術などを駆使し、保存を確かなものとしたうえで整備や公開にのぞむこと。

(3)当該遺構周辺の開発においても関連する遺構が存在する可能性があることから、両協会ともに引き続き注視をしていく所存である。関連する遺構が発見された場合は、高輪築堤と一体化した保存を視野に入れて議論の俎上にあげること。

(4)今後、地域住民や一般の方々からの保存や活用を求める声が高まることも予想されるが、その主旨や意見を十分に受け止めて、国民共通の文化遺産である「高輪築堤」保存・活用のあり方に反映させること。


以上

2021年8月16日


日本歴史学協会 委員長 若尾政希

日本考古学協会 会 長 辻 秀人