天皇交替に伴う即位諸儀礼と大嘗祭の在り方に関する声明

来たる四月三〇日に現天皇は退位し、翌五月一目に現皇太子が天皇に即位する。これは、日本国憲法施行後二度目の天皇交替である。この天皇交替に伴う諸儀礼について、政府は、昭和天皇の死去に伴って実施された現天皇の即位儀礼の在り方を踏襲する方針を昨年四月三日の閣議で決定している。すなわち、四月三〇日に挙行される「退位礼正殿の儀」、五月一日に挙行される「剣璽等承継の儀」「即位後朝見の儀」、一〇月二二日に挙行される「即位礼正殿の儀」などは、日本国憲法第七条一〇項で規定される「国事行為」とされ、前回の天皇交替の際にも宗教的な面があるとされた「大嘗祭」は「皇室の公的行事」として一一月一四日・一五日に挙行されることとなっている。

このたびの天皇交替に伴う諸儀礼の在り方を、前回のそれを踏襲する形で行うことについて、政府は昨年四月の閣議決定において、「平成の御代替わりに伴い行われた式典は、現行憲法下において十分な検討が行われた上で挙行されたものであることから、今回の各式典についても、基本的な考え方や内容は踏襲されるべき」と理由づけている。しかしながら、前回の天皇交替は、昭和天皇の死去に伴うものであったことから、国民的議論を行う充分な条件が整っていたとは言い難い。実際に挙行された諸儀礼も、旧憲法下の登極令に定められたものと本質的に変わらないものであった。例えば、「剣璽等承継の儀」において新天皇が継承する所謂「三種の神器」であるが、日本国憲法第一条の規定により「主権の存する日本国民の総意に基」づく「日本国の象徴であり日本国民統合の象徴」である天皇が、何故、その存在の資料的根拠も定かでない「三種の神器」なるものを継承することが現代の象徴天皇の即位儀礼の一部として必要なのか、歴史学を学ぶ私たちとしては疑義を抱かざるを得ない。

また、「皇室の公的行事」として挙行される「大嘗祭」については、まさに「神事」そのものであると言わざるを得ない。この「大嘗祭」の挙行にあたっての費用は、皇室の公的行事の遂行のために使用される宮廷費から支出され、また国家公務員である宮内庁職員が運営に当たることになる。費用の出所や国家公務員がその運営に当たるという点に鑑みれば、「大嘗祭」が「皇室の公的行事」として挙行されることについても、日本国憲法第二〇条・第八九条などで定める政教分離原則の観点からは、非常に問題があると言わざるを得ない。もし伝統的な一世一代の天皇交替に伴う宗教的行事としてどうしても「大嘗祭」を挙行する必要があるのであれば、通常の宮中祭紀と同様に内廷費から費用を支出するなど、あくまでも天皇家の私的な行事として行うべきであると考える。

なお、天皇交替に伴う「改元」に対し、それによって新たな時代が到来するかのような雰囲気を醸成するメディアの姿勢にも、懸念を表明せざるを得ない。「元号」とは、土地・人民のみならず時間までも君主が支配しようとする思想に基づくものであり、国民主権の現在の日本には全くふさわしくないものと私たちは考えるからである。

以上、私たち日本歴史学協会は、今回の天皇交替に伴う諸儀礼の在り方が、日本国憲法に定められた象徴天皇の交替としての諸儀礼の在るべき姿から逸脱する面があることに疑義を表明する。あわせて宗教的儀礼に他ならない大嘗祭については「皇室の公的行事」とすべきではなく、あくまで通常の宮中祭紀同様の位置づけのもとに挙行されるべきであることを主張するために、この声明を発するも のである。

二〇一九年三月三〇日

日本歴史学協会 会長 中野達哉

同会学問思想の自由・建国記念の日問題特別委員会 委員長 小嶋 茂稔