「建国記念の日」に関する声明

日本歴史学協会は、一九五二年一月二五日、「紀元節復活に関する意見」を採択して以来、「紀元節」を復活しようとする動きに対し、一貫して反対の意思を表明してきた。それは、私たちが超国家主義と軍国主義に反対するからであり、「紀元節」がこれらの鼓舞・浸透に多大な役割を果たした戦前・戦中の歴史的体験を風化させてはならないと信じるからである。しかるに、政府は、一九六六年、「国民の祝日に関する法律」を改定して「建国記念の日」を制定し、政令によって戦前の「紀元節」と同じ二月一一日を「建国記念の日」に決定して今日に至っている。

私たちは、政府のこのような動きが、科学的で自由な歴史研究と、それを踏まえるべき歴史教育を困難にすることを憂慮し、これまで重ねてこれに反対する私たちの立場を表明してきた。

本年二〇一九年は、四月三〇日に現天皇が退位し、翌五月一日に現皇太子が天皇に即位することとなっている。この「代替わり」に伴い、「平成」という元号に区切られた三〇年余りの時間に、特別の意味を付与しようとする動きが顕著に見られる。例えば「平成の、その先の時代に向か」うと語った第一九八回国会での安倍首相の施政方針演説の一節にも窺える。いうまでもなく元号とは、皇帝や天皇が、土地や人民のみならず時間までも支配しようとする観念に基づいて制定されたものであって、国民主権の今日においては本来その存在が許されるべきものではない。「代替わり」に乗じて、元号のような復古的・権威主義的な存在が無批判に受け容れられようとしている現状と、象徴天皇制のもとに国民統合を進めようとする動きに、強い危機意識を抱かざるを得ない。

教育においては、一昨年の小学校・中学校の学習指導要領の告示に引き続いて、昨年、高等学校の学習指導要領も告示され、歴史教育も新たな段階に進もうとしている。しかしながら、歴史教育においては、依然として我が国の歴史や伝統を大切にして国を愛する心情を養うことなどが目標として掲げ続けられており、例えば日本の古代の歴史を学ぶ際に、「神話・伝承を手掛かりに、国の形成に関する考え方などに関心」をもたせることが学習指導要額で求められている。こうした科学的な史料批判を介在させない形での「神話・伝承」の教材としての利用は皇国史観の復権にも繋がりかねない危険を有しているとも言える。歴史学の科学的成果に依拠して蓄積されてきた戦後の歴史教育の豊かな成果が軽視されてはならないと考える。

同時に私たちは、歴史研究・歴史教育に従事するものとして、歴史学はあくまで事実に基づいた歴史認識を深めることを目的とする学問であり、歴史教育もその成果を踏まえて行われるべきであり、政治や行政の介入により歪められてはならないことを、あらためて強調するものである。

二〇一九年二月二日

日本歴史学協会 会長 中野達哉

同会学問思想の自由・建国記念の日問題特別委員会 委員長 小嶋 茂稔